研究内容

1)目の前の土壌はどのように出来たのか?~土壌生成機構の解明

農業生産の基盤である土壌は、岩石(無機物)と生物(有機物)の相互作用によって生成される物質であり、気候・母材・植生・地形・時間という土壌生成因子に基づいて、必然的な特徴(養分が多いか少ないか、養分を蓄積しやすいかしにくいか、等)をもって、その場所に存在しています。我々は生まれた場所を、土壌を選ぶことはできず、基本的にはそこにある土壌と向き合って、生きていく必要があります。そのためには、土壌の成り立ち(その場所の土壌がどうやって出来上がった(生成した)のか?)を理解することは重要であるとともに、ひいては、その場所の持続的な土壌資源管理を考えることに繋がります。例えば最近だと、インド、タンザニア、ガーナなどの熱帯地域や、東京、沖縄、福井、兵庫などの国内各地を対象に、地域が持つ土壌生成因子と土壌理化学性が持つ関係性について研究をしています。

2)土壌はどのような特性を持つのか?~土壌資源特性の解明

世界中には物理的・化学的・生物的な特性(ここでは資源特性と名付けます)が異なる多様な土壌(といっても十数種類ですが)が存在しており、その多くの土壌は何らかの形で必ず農林業生産に利用されています。しかし、この資源特性を正確に理解しないまま利用すると、多くの問題が生じます(砂漠化・塩類集積・土壌侵食などといった土壌劣化の発生)。我々の研究室では、世界に分布する様々な土壌の資源特性について、土壌の生成機構と合わせて理解・解明することで、その理解を深めます。と共に、最新の知見と技術に基づいて、効率的な食料生産や気候変動抑止を実現するために必要な尖鋭研究を展開しています。例えば最近だと、土壌中で起きる炭素・窒素・リンの動態とその管理を主目的として、土壌有機物の分解にかかわる土壌微生物の群集組成や機能の役割とその環境制御因子との関係の解明に関する研究や、国内では珍しい同位体標識残渣を用いた土壌有機物の蓄積機構の解明に関する研究、菌根菌や根粒菌などのいわゆる有用微生物を活用した土壌-作物間の窒素・リン循環機構の解明と改善に関する研究などを実施しています。

3)土壌をどのように管理すれば良いのか?~土壌資源管理方策の創出

土壌学は農学分野における重要な基盤科学です。100年、1000年先にわたって人類の食料安全保障を確約するためには、有限な土壌資源を持続可能に管理する必要があります。しかしこの持続可能な土壌資源管理方策として、世界のどこでも通用する唯一無二の管理方策、を創出するのは非常に困難です。その理由は、環境が異なれば、そこで生じる問題も異なるからです。そのため、土壌の資源管理を考えるためには、対象とする地域とじっくり向き合い、土壌環境はもとより気候や地形、栽培品種や社会・文化環境を把握・理解したうえで、現場で本当は何が起きているのか?何がどう問題なのか?を解明し、その地域に寄り添った土壌資源管理方策を創出する事こそが重要である、と我々は考えています。我々の研究室では、特にこの、“土壌資源管理方策の創出”というテーマに力を入れて1)2)の基盤研究に基づいた応用研究を進めています。例えば最近では、熱帯農地を対象に、バイオ炭施用が土壌炭素動態や作物生産性に与える影響に関する研究や、混作(マメ科作物と主作物を一緒に栽培する農法)が持つ高いリン吸収能を有用微生物を活用してさらに高めるための研究や、国内農地を対象に、不耕起・カバークロップを組み合わせた保全型農法や無肥料・無農薬の自然農法等の、環境再生型農業が土壌中の物質循環や土壌生物機能に与える影響についての研究を展開しています。

以上のような興味・関心を基に、我々の研究室では、対象とする地域の土壌生成機構や土壌資源特性の理解に基づいたうえで、その場所の何がどう問題なのか?そしてそれをどうすれば解決できるのか?を明らかにするための研究を以下に展開しています。実際には、上述した3つの視点は相補的なものなので、どれか1つの切り口から研究を展開する、というよりは、そのバランスはさておき、全ての視点を含んだ研究テーマとして進めているのが現状です。

研究トピック

以下に、我々の研究室が最近進めている研究トピックを紹介します。

  1. 土壌酵素活性を指標とした「土壌の質」の評価 (田中)
    Keywords; 土地管理法、土壌診断、物質循環、連作障害
  2. 土壌炭水化物を中心とした土壌有機物の動態解明 (田中)
    Keywords; 炭素隔離、土壌有機物、バイオ炭、生物生産
  3. 「土壌の質」が分かる土壌図の作成 (田中)
    Keywords; 土壌図、土壌断面、土地利用、可視化
  4. 熱帯畑作地における養分フローの管理を軸とした新たな増産技術の創出 (杉原・LYU)
    Keywords; 有機物分解、土壌微生物、炭素隔離、タンザニア、インド
  5. 熱帯土壌における炭素蓄積機構の解明とその持続的管理方策の創出 (杉原・LYU)
    Keywords; 難分解性有機物、同位体標識、粘土鉱物、バイオ炭、インド、ガーナ
  6. 植物―微生物共生系がもつリン獲得機構の土壌学的解明とその農学的利用 (杉原)
    Keywords; 難溶性リン、菌根菌、鉄・アルミニウムの形態、根圏、菌根圏
  7. 保全型農業が土壌生物群集とその機能に与える影響の解明~本当に土はよくなっているのか?(杉原)
    Keywords; 不耕起、カバークロップ、土壌微生物、物質循環、Soil health

その他)光る泥団子を用いた環境教育イベントの実施による社会貢献活動

より詳細な研究や活動内容に関しては、“Member”紹介内の学生の研究テーマや、“Gallery”の項目などを参照してください。

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